Choprd ショパールの初代L.U.C 16/1860を一言で表すならば,「妖艶」だろう。
かなりマニアックな時計だが,以前のリファレンスであれば大台を下回る価格でも入手可能で,かつ出来は素晴らしく良い。
シンプルなラウンドのドレス時計を探しているのであれば,候補に入れるべき時計だ。
パテックフィリップの時計はよいと思っていたリファレンスを手に入れてしまい,A.ランゲ&ゾーネの時計もランゲ1に続いて剣針でシンプルな1815も入手した。
すでにオーデマピゲ ロイヤルオーク,ヴァシュロンコンスタンタン オーバーシーズも手元にあり,レクタンギュラーケースのレベルソもある。
ほぼ自分が考えていた時計が揃いきったため,後回しになっていたショパールのLUCシリーズを探し始めた。実物は残念ながら見たことがなく,写真だけでしか確認できていなかったが,好みなんだろうなという感触はあった。
サイズを37mm前後と限定すると,必然的に初代LUC 1860が候補として上がってくる。すでに廃盤となっており,国内では何度か中古で出回っているようだが数はかなり少ない印象。
しかしショパールの時計はかなり情報が少なく,手元の雑誌やネットで調べてみたが初代LUC 1860についてもいまいちはっきりしない点がある。
簡単にわかったことだけまとめて書いておこう。
・初代1860は,最初にハンターケース付きのL.U.C 16/1860/1が各色100個限定で作成された。Pt(プラチナ)・WG(ホワイトゴールド)・YG(イエローゴールド,ただしRG(ローズゴールド)でYGに近い色だったとの情報あり)があることははっきりしているが,PG(ピンクゴールド)もあった? しかしどうも発注されてからケースを作成するなりの手法をとっていたとの情報もあり,実際に各色100個作成されたかは不明。
・ハンターケースは不具合があったので,シースルーバックの時計となったという話がある。ただし具体的な不具合がよくわからず,その後もハンターケース付きの時計を新作として出していることから,当初から100個限定なだけだった可能性もある。
・ハンターケースでないケースの時計のリファレンスはL.U.C 16/1860/2。
・リファレンスの1860は1860本限定という意味らしいが,各色1860本なのか,すべてを通して1860本なのかは不明。何本まで実際に作成されたのかもわからない。
・L.U.C 16/1860/1およびL.U.C 16/1860/2のムーブメントは,1.96(ジュネーブシール・C.O.S.Cあり)ないし3.96。どちらが搭載されているかは,ムーブメントにジュネーブシールがついているかで判別できる。
・文字盤はMetalemが製作。Philippe Dufour,A.ランゲ&ゾーネの文字盤製作も行っている。
・Philippe Dufourの時計を見る限り,現在のLUCもMetalemが文字盤を作成している可能性は高いように思う。文字盤の雰囲気が変わっていない。
・文字盤は,ホワイト(シルバー),ブラック,ブルー,サーモンピンクが確認できる。ケース素材と文字盤の組み合わせが限定されているようでもない。発注時にケース素材と文字盤の色を指定できていた可能性は高いように感じる。
ということで,例のごとくChrono24で物色し始める。
ケースはWGかPt,ムーブメントを1.96として探すとこれまた数が少ない。個人出品だと100万円を切るかなり安価なものもあったが,不鮮明な写真を見る限りムーブメントは3.96のようだった。
まぁ不鮮明な写真のものは高くすると買い手がつかないから,あえてそこで安く買うという手もあるが,今回は該当機種ではなかったのでその手段はとらなかった。
最終的に,WGで文字盤は青のものがよいだろうと思って出品者にコンタクトをとった。ハンターケース仕様(L.U.C 16/1860/1)で,ムーブメントの写真がなかったためその撮影を依頼したところ,快く応じていただけた。
ムーブメントを確認したところ,ジュネーブシール付きの1.96であることが判明。多分,16/1860/1に搭載されたムーブメントは1.96のみなのではないかと思う。
1.96が搭載されている1860はやはり値段が高くなりがちだったが,後述するショパール純正のDバックルが付属していたため,相場よりやや高くてもDバックル代だなということで購入した。だいたい150万円ほどだった。
発注してから一週間ほどでFeDexで到着。
発注したときには,ホワイトの文字盤のほうが普段使いにはいいのだがモノがないので仕方ない面もあるか,と思ってブルー文字盤は妥協した点だった。
しかし手元に来てみたら,このブルーが非常に素晴らしい。明るいところでは爽やかさを感じるブルー,暗いところでは黒にも見えるブルーブラック。針とインデックスとのコントラストがはっきりするので,視認性もかなりよい。
日付表示も,きちんと文字盤に合わせているので統一感が損なわれていない。
写真などで見ていたときよりも実物の方が遙かに端正で,かつ文字盤の色味にかなり色気がある。サイズ感も極めてちょうどいい。
向かって左から,パテックフィリップ3940Gパーペチュアルカレンダー,L.U.C 16/1860/1,パテックフィリップ5110Gワールドタイム。
L.U.Cの厚さはワールドタイムより薄く,薄いといわれているパーペチュアルカレンダーなみである。この薄さのため,腕なじみは大変よい。
ムーブメントには言うことなし。パテックフィリップ・ランゲ並みかそれ以上といっていい。
白銀のローターは,プラチナ製。1.96の中でもケースがプラチナとホワイトゴールドの場合に,プラチナローター仕様となっているらしい。
さて,問題の純正Dバックルである。
剣先ベルトの付け方が間違っているようにも見えるが,これで正解なのである。
剣先ベルトが内側に来る構造のDバックル。
Dバックルのエンド部分に一つ,内側部分に一つ,二つの突起がありベルトには二つの穴が必要になる。
向かって左からショパール,パテックフィリップ,A.ランゲ&ゾーネ,ジャガールクルト。ショパール以外はすべて剣先が外に出る構造で,この構造がDバックルでは一般的だろう。話によるとオメガやカルティエは剣先を外に出さない構造のDバックルだそうだ。
ショパールのこの構造の優位点は,見た目が非常にすっきりすることである。剣先が外に出ない上,定革・遊革がないので,一体型ブレスレットのように見た目に美しい。
欠点はというと,ベルトの位置合わせがかなりシビアなのではないかということと,取り外しの際に剣先ベルトのDバックル結合部分にかなり負荷がかかること,剣先側が内側に来るので人によっては当たりが気になるかもしれないことである。
とにかく見た目・見栄えを最優先にエレガントなDバックルを作ったらこうなった,という見本のようなものである。現状のLUCシリーズのDバックルがどうなっているのかはわからないが,ブランドの方向性がはっきり見えるので面白い試みではある。
ざっとした全体的な印象を書いたが,この時計はかなりのものである。もっと早く手に入れておけば良かったと思うくらい素晴らしい。