以前,ヴァシュロン コンスタンタン Vacheron Constantinの時計として初代オーバーシーズを購入した。
ヴァシュロン コンスタンタン Vacheron Constantinのドレスウォッチも気になっていたが,フィフティシックスは文字盤は好みだがサイズがやや大きかった。
また針がバトン針で細いものは好みではないため,ヴァシュロン コンスタンタン Vacheron Constantinのドレスウォッチのうち結構な数が対象外となってしまう。
これらの時計を除外したところ,ドーフィン針でサイズ感が丁度いい時計としてパトリモニー トラディショナルに目をつけていた。
現行モデルではあるが,並行輸入や中古品もそれなりに数が出回っている。
当初はホワイトゴールドモデルを念頭に置いていたが,ホワイトゴールドモデルと値段が逆転しているプラチナモデルをみつけたため購入した。最近の経済情勢のせいか,最初の値付けから10%以上ディスカウントされていたのだ。
付属品として2015年の購入証明がついていた。
開けて驚いたのは時計をボックスに配置する部分とトラベルボックス様の箱がいずれも加水分解でボロボロになっていたこと。どうしようもないので別々にしてジップロックに入れた。
なお写っていない木製の化粧ケースについても内側が同種素材で加水分解が進行していた。布なり革なり,ここまで強烈に劣化が進まない素材を使用してもらえないものだろうか。
USBメモリには,フラッシュ形式の取扱説明書などが入っていた。
なおUSBメモリも長期間電源に通さないとデータが喪失する可能性があるので,素直に紙のほうがいいのではという気もする。
それとUSBメモリの外装にも何かコーティングがされていて,このコーティングも劣化しないか心配だ。
パッケージについてはさておき。
38mmというサイズ,インデックスもバーのみのシンプルな文字盤と,最小限の装飾で端正。
文字盤の地板はマットな仕上げである。
文字盤全体と対照的に,秒針のレールウェイインデックスの両側面が磨かれている。そのため上記写真でも秒針のレールウェイインデックスの両側面,秒針1時30分から3時にかけての部分だけが光を反射していることが確認できる。わずかな部分だけ光ることで差し色と同様の効果が生じ,時計全体の印象を引き締めている。もし単に文字盤全体がマットであったならば,極端に地味な時計になってしまうだろう。
文字盤がグレーなので視認性が悪いのでは,と思っていたがそのようなことはまったくなかった。この理由については後述。
重量は革ベルトとバックル込みで74g弱。プラチナモデルではあるがそれほど重さは感じない。Deployantバックル付きのパテックフィリップ5196Gの重量が71gなので,ほぼ同等である。
サイズ感もきわめて適正で,腕なじみは大変良い。
なお限定品になるが,プラチナモデルのパトリモニー トラディショナルについてのレビューはこちら。
手持ちの手巻きモデルと並べてみる。
わかってはいたが比較するとパテックフィリップ5196Gのスモールセコンド位置が中央寄りなので目立つ。
右端のパテックフィリップ5134Gはムーブメントは小さめ。Lange・VC・Chopradは詰まっているので充足感がある。
それと並べてみて気がついたが,Chopard LUCだけコートドジュネーブの向きが逆。
とはいえ線が揃ったコートドジュネーブ,受けの割り方,歯車の磨きを含めてどれも美しい。
パトリモニー トラディショナルにはジュネーブシールもついており,プラチナの外装とムーブメントの銀白色の仕上げがよく調和している。
パテックフィリップの5196Gとは双子のようだ。
Lange 1815とはほぼ同サイズで文字盤の大きさも同等。
L.U.C Quattroのほうがややベゼルが太いか。
文字盤側について比較して気がついたことがある。
リーフ針のパテックフィリップ5134G,剣針であるランゲの1815と比較してパトリモニー トラディショナルの針が立体的なのはすぐわかる。
しかし同じドーフィン針のパテックフィリップ5196G・Chopard L.U.C Quattroと比較してもパトリモニー トラディショナルの針については視認性が飛び抜けて良い。
針の部部分を抜き出して比較してみる。
どちらも稜線はあるが,パトリモニー トラディショナルは針の稜線からそれぞれの端に向かって仕上げを変更している。そのため針の剣先に向かってポリッシュされている右側は光り,剣先に向かってマットに仕上げられた左側と明確なコントラストが出ている。
視認性というのは視覚に対する情報量の大小と言い換えてもよい。
視覚に対する情報量は光量(明るさ)とコントラスト(他の物体と判別可能か)に集約される。我々は色や物そのものを見ているのではなく,光を見て色の判別や物の形状の判断をしている。
そしてパトリモニー トラディショナルの針の設計者はこのこと,すなわち人間の視覚についての仕組みを十二分に理解してこの形状にしたのだろう。針の稜線のどちらかの側は明るくなり(光量の確保),稜線の反対側がマットになることで針にコントラストを与える(針そのものにコントラストがつくことで文字盤上で判別を容易にしている)。非常に優れた設計であるし,かつ科学的にロジカルな解である。
確かにデザインは保守的であるし(だからこそ私の好みなのだが),針がこんなに良くて…という話も時計好きにしか通用しない話ではある。
しかしシンプルでいて上品,スモールセコンド位置を含めたデザインのバランスはパーフェクト,嫌みがなくてパテックフィリップの時計ほどの価格だと躊躇するとしても,パトリモニー トラディショナルは並行輸入品の新品(ホワイトゴールドモデル,プラチナモデルは今回のようなことがない限り難しそうだ)であれば100万円台の範囲内でなんとか購入できる。日常使いの三針モデルを探していて新品が欲しい場合には,候補に入る時計だろう。